2018年2月12日月曜日

おらおらでひとりいぐも

おらおらでひとりいぐも   単行本: 168ページ:河出書房新社 (2017/11/16)
〈もう今までの自分では信用できない。おらの思っても見ながった世界がある。そごさ、行ってみって。おら、いぐも。おらおらで、ひとりいぐも〉
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「人は誰でも、独りで生きるのが基本だと思います。
自分を一番大事にして、生き生きと充足していれば、夫や子供に過剰な期待をすることもなくなる。
子どもも親にのしかかられることなく、主体的に生きられますよね」
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…老いの先に恐れではなく深い安心です。
地球46億年の歴史と太古の人類がアフリカを出た後の遠い道のりに思いをはせ、故郷の山へ向かう白装束の女たちの長い行列を幻視し、その末につながる自分の命は、奇跡のようなものなのだと感得します。
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連綿とした命の営みの中の私という一部分が組み込まれていて、死んでも私につながる魂のようなものが確かに続いて行くー。
そんな感覚は救いです。
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:幸せな狂気
〈あいやぁ、おらの頭このごろ、なんぼがおがしくなってきたんでねべが〉昨年度の文藝賞を受賞した若竹千佐子の『おらおらでひとりいぐも』は、主人公桃子さん74歳の、内面から勝手に湧きあがってくる東北弁の声ではじまる。

24歳の秋、桃子さんは東京五輪のファンファーレに背中を押されるように故郷を離れ、身ひとつで上京。それから住みこみで働き、美男と出会って結婚し、彼の理想の女となるべく努め、都市近郊の住宅地で2児を産んで育て、15年前に夫に先立たれた。ひとり残された桃子さん、息子と娘とは疎遠だが、地球46億年の歴史に関するノートを作っては読み、万事に問いを立てて意味を探求するうちに、自身の内側に性別も年齢も不詳の大勢の声を聞くようになった。それらの声は桃子さんに賛否の主張をするだけでなく、時にジャズセッションよろしく議論までする始末。どれどれと桃子さんが内面を眺めてみれば、最古層から聞こえてくるのは捨てた故郷の方言だった。

桃子さんの人生は戦後の日本女性の典型かもしれないが、他人が思うほど悪いものではない。最愛の夫を喪ったときに根底から生き方を変え、世間の規範など気にせず、〈おらはおらに従う〉ようになったのだ。話し相手は生者とは限らない。そんな〈幸せな狂気〉を抱えて桃子さんは孤独と生き、未知の世界へひとりで行こうとしている。

日々を重ねなければ得られない感情には、〈悲しみがこさえる喜び〉もあるのだ。63歳の新人作家は三人称と一人称が渾然一体となった語りを駆使し、その実際を鮮やかに描いてみせた。お見事!      評者:長薗安浩(週刊朝日 掲載)

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